| 竜二 | 「どうだい? 現ナマの感触は?」 |
| 金田 | 「懐かしい……この手触り……」 |
| 竜二 | 「やっぱり、お祝いは現ナマだろう」 |
| 亜希子 | 「ああ……お金の匂い」 |
| 金田 | 「それに、なんだか有り難みを感じますね」 |
| 竜二 | 「なっ」 |
| 亜希子の声 | 「しかし……」 |
| 亜希子の声 | 「翌日、兄は逮捕された」 |
| 竜二 | 「あっ……」 |
| 刑事 | 「スリの現行犯で逮捕する」 |
| 亜希子の声 | 「現金の逆スリをするために、電子マネーを盗もうと したところを、捕まってしまったのです」 |
| 亜希子の声 | 「兄のしたことは、決して無駄ではありませんでした……」 |
| 主婦A | 「コレちょうだい」 |
| 店員 | 「はい、らっしゃい」 |
| 主婦A | 「あと、コレとコレね」 |
| 店員 | 「はいはい。えーっと、全部で831円だね」 |
| 主婦A | 「じゃ、これで(と電子マネーを出す)」 |
| 店員 | 「え?」 |
| 亜希子 | 「すいません、コレとコレとコレ」 |
| 店員 | 「はい、らっしゃい。えーっと、こちらは全部で726円ね」 |
| 亜希子 | 「はい(と千円札を出す)」 |
| 店員 | 「はい、千円ね(と受け取り)274円のお返し(と釣り銭を渡す)」 |
| 亜希子の声 | 「兄が毎日現金をバラまいたおかげで、人々は次第に電子マネーの味気なさに気がついたのでした」 |
| 店員 | 「やっぱり、お金は現金だね」 |
| 亜希子 | 「うん、小銭はジャラジャラ重くないとね」 |
| 店員 | 「ときどきお釣りを間違えちゃうこともあるけゼさ、その方がお金の大切さが身に沁みるんだよ。(主婦Aに)お客さんも早く現金にしなさいよ。いつまでもそんなカッ |
| コ悪いもん使ってんの?」 | |
| 主婦A | 「…・・・」 |
| 亜希子 | 「じゃ」 |
| 店員 | 「毎度あり」 |
| 亜希子の声 | 「兄がいなくなった代わりに、世の中には現金が戻って来ました。しっかりした重みがあって、有り難みがある、お金が……」 |
| 少女の声 | 「そんなことばかりあって、やがて電子マネーを使うことをやめたのよ」 |
| 少女 | 「……わかった?」 |
| 少女 | 「眠っちゃったのか……」 |
| 少女 | 「さ、宿題やんなくっちゃ」 |
| Na | 「西暦2100年、私たち人類は現代よりもはるかに古め かしい暮らしを送っている。この百年の間人類が生んだ 新たな技術は、未来を明るくしてくれるものではなかっ たのである」 |
| 〔第6話・完〕 |