| 亜希子 | 「またスリをしたの?」 |
| 竜二 | 「……」 |
| 亜希子 | 「かっこいい(と呟く)」 |
| 竜二 | 「よせよ、照れるじゃないか」(歩き出し) |
| 亜希子 | 「さすがはお兄ちゃん。スリで捕まったくせに、出所してくる時にまたスリをするなんて、カッチョ良すぎる」 |
| 竜二 | 「どうだ、おまえは。スッてる? ん? スッてるか?」 |
| 亜希子 | 「ううん。最近はちっとも……」 |
| 竜二 | 「どうして?」 |
| 亜希子 | 「お兄ちゃんがパクられてから、なんだか怖くて」 |
| 竜二 | 「そっか。でも安心しろ。もうあんなドジは踏まないよ。今日から二人でばんばんスろう! なっ」 |
| 亜希子 | 「そうね、ばんばんスろう。あはは」 |
| 竜二の声 | 「俺たち兄妹は、両親をなくしてから、二人でスリをし |
| て生計を立ててきた。しかし、まさか5年の間に、現金 がこんなにおしゃれなカードになっていたなんて……」 | |
| 竜二 | 「で、何なんだ? その、電子マネーってのは」 |
| 亜希子 | 「今の世の中、これがないと買い物も満足に出来ないの」 |
| 竜二 | 「これが、金の代わりだって?」 |
| 亜希子 | 「うん、そうよ」 |
| 竜二 | 「……じゃ、今日からはこれをスルのか」 |
| 亜希子 | 「そうね。そういうことになるわね」 |
| 竜二 | 「よし、こっちは俺の。そっちは亜希子のにしよう」 |
| 亜希子 | 「うん」 |
| 竜二 | 「(手に持って)軽いんだな……」 |
| 亜希子 | 「(もうひとつを持って)うん、軽いよね。でも軽いからスラれたことに誰も気づかない」 |
| 竜二 | 「なるほど……。アシはつかないのかな?」 |
| 亜希子 | 「電子マネーはクレジットカードと違うの。サインをしたり、承認したりする必要もないのよ。だから、落としたりスラれたりしたら、誰でも自分の金として使えるの」 |
| 竜二 | 「ほう……」 |
| 亜希子 | 「ねっ、いいでしょう? まるでスリのためにあるようなお金でしょ?」 |
| 竜二 | 「そうかもな」 |
| 亜希子 | 「ねえ、そっちにはいくら入ってる?」 | ||||||
| 竜二 | 「さあ?」 | ||||||
| 亜希子 | 「電源を入れてみて」 | ||||||
| 竜二 | 「電源?」 | ||||||
| 亜希子 | 「そこのボタン」 | ||||||
| 竜二 | 「(見て、押す)」 | ||||||
| 亜希子 | 「(覗いて)3万5千204円あるわ……」 | ||||||
| 竜二 | 「結構入ってたな」 | ||||||
| 亜希子 | 「こっちは2万8千511円」 | ||||||
| 竜二 | 「誰か来たぞ」 | ||||||
| 亜希子 | 「うん(と立ち上がる)」 | ||||||
| 竜二 | 「?」 | |