| | 息の音が聞こえるの……。あたしこの音が気になって気になって……!! |
| と、言いながら、宗一郎Hの鼻の穴に指をグイッ、と突っ込み、 |
| 桃子H | こうやって……グリグリして!! ハナクソほじくり出したかった!! |
| 宗一郎 | すまなかった……。でも、キミにそんなマジメな顔でハナクソほじくられても、僕は |
| どうしていいのやら……。 |
| 桃子H | ごめんね。思考の中だからつい、本気でほじくっちゃった…… |
| 桃子H、グリグリしていた指を抜く。 |
| 桃子H | あっ、止まったわ。 |
| スピー、スピーの音、止まっている。 |
| 宗一郎 | ……その音のせいでちゃんと観なかったのか。僕はてっきり、キミもあの映画を気に |
| 入ってくれたのかと…… |
| 桃子H | 一番好きな映画だわ、って言ったら、あなた嬉しそうだったわ。 |
| 宗一郎 | うん、嬉しかった。同じ映画を好きになれるなら、僕たち二人もうまくやっていける |
| ような気がしたし……。ますますキミのことを好きになった。 |
| 桃子H | それは良かった。正解だったのね、そう言って。 |
| 宗一郎 | でも、わからないな僕には……。好きでもない映画を、キミはどうして好きだなんて |
| 言えるんだい? 観てもいない映画をどうして好きだなんて…… |
| 桃子H | だからそれはあなたが喜ぶと思って……。 |
| 宗一郎 | 僕のことも? 僕のことも、キミは好きでもないのに好きって言った。そう言えば、 |
| 僕が喜ぶから? わからないよ僕には。なぜ僕をそんなに喜ばせたかったんだ? 僕 |
| のお金が欲しかったから? なにか買って欲しかったから? |
| 桃子H | それだけじゃない。わたしを好きになってもらいたかったのよ。 |
| 宗一郎 | キミは僕のこと好きじゃなかったんだろ? |
| 桃子H | うん。だからってあなたに嫌われるのは、もっとイヤよ。 |
| 宗一郎 | 何だ、それ? ああ……だめ。だ、わからない。……やっぱり、僕はキミのことを知ら |
| な過ぎたんだ……(と、頭を抱える) |
| 桃子H | そうじゃないと思うけど。 |
| 宗一郎 | じゃあ何だよ。 |
| 桃子H | あなたが知らなかったのは、あたしのことじゃないわ。その前に、女のことを知らな |
| かったのよ。 |
| 宗一郎 | ……えっ? |
| 桃子H | 映画なんかどうでもいいの。だって、女は映画館に自分を観せに行くんだから。 |
| 宗一郎 | 自分を? 男に? |
| 桃子H | 鼻息がスピスピ鳴るのは男だけじやないわ。ハナクソがつまれば女だって鳴る。でも |
| 男と映画を観てる時に鳴らすようなヘマはしない。どんなにスクリーンに集中しても |
| 自分も観せているってことを忘れないから。映画のあと、中華料理を食べたでしょ? |
| 宗一郎 | あっ、覚えててくれたんだね? |
| 立体映像の光線が差す。と、部屋全体も明るくなり、中華料理の円卓が登場。 |
| そこには、豪華な料理が並んでいて、宗一郎Hが食事をしている。 |
| 桃子H、いつのまにか、チャイナドレスを着ている。 |
| 桃子H | 中華食べるって聞いて、わざわざ着替えたんだもん。(と、見せる) |
| 円卓の前に座り込んだ、本物の宗一郎。 |
| 宗一郎 | ……そうか、チャイナドレスだったな。スピスピのあと、僕はドキドキしたんだ。 |
| 桃子H | なんの映画見たかなんてすぐ忘れちゃうけどね、どこで何着てたかはちゃんと覚えて |
| るの。女なんて……そんなもんよ。 |
| 宗一郎 | そうか、そんなもんか。僕は自分が何着てたかなんて、全然覚えてないけどなあ。 |
| 桃子H | (席について)それに、この料理イマイチだったから。それで覚えてたの。 |
| 宗一郎 | おいしい、って言ってたじゃないか。 |
| 桃子H | ごちそうしてもらうのに、まずいなんて言えないでしょ? ……なんて言うのかな、 |
| 味の趣味っていうの? あたし中華料理だったら、もっと濃い味が好きなんだ。 |
| 桃子H、醤油やラー油を料理にドバドバかけて、 |