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一歩一歩、森の奥へ向かって歩く影……。
それは、オレンジを背負ったワタルだった。
オレンジねえワタル、どこ行くの?
ワタル……。
ピクニック気分のオレンジ。ワタルは、質問に答えようともしない。
森の中を静かに進むワタル。モノローグで、
「僕は、オレンジを人里離れた森の中に置き去りにすることにした。その方が粗大ゴミよ
りはいくらかマシな気がしたのだ。背中の電源スイッチを切らなかった。切らなければ何
倍も辛いとわかっていたが、僕にはどうしても切れなかったのだ」
森の奥の、大きな木の下---。
麻縄を使って、ワタルはオレンジをその木にぐるぐると縛りつけた。
オレンジ(縄を見て)なあに?これ。……わかった。緊縛プレイだあ。
ワタル……?
オレンジねっ?団鬼六だ(とはしゃぐ)
ワタル(泣きそうな顔でしんみりと)そんな裏ワザのセリフもあったのか……。
オレンジどうしたのワタル。悲しいの?
ワタルお別れなんだ……


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オレンジどうして?
ワタルは急に立ち上がり、背中を向ける。そしてそのまま、
ワタルごめんよ、オレンジ。
と言うと、勢いよく歩きだした。
どんどん遠ざかるオレンジ……。
オレンジワタル(と呼びかける)
ワタル……ッ!!
オレンジの呼びかけに、思わず立ち止まってしまったワタル。
オレンジ(ワタルの背中に)好きよ、ワタル。
振り返ったら最後、もう二度と進めない。
そこにはオレンジの、あのニコニコした顔があるからだ……。
ワタルは意を決し、再び力強く歩きだした。
今度こそ立ち止まるまい……。足取りが、その気持ちを表している。
その時、生い茂った木をかき分けて、ワタルの前に謎の二人組が現れた。
それはオナペッツの二人(宝ダイヤ&ルビー)。
清掃局員の姿に身を包んでいる。
ダイヤ・ルビー(声を揃え)こんにちはっ、清掃局です。


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ワタル……は?
ダイヤ・ルビー(声を揃え)粗大ゴミの回収に参りました。
ワタル(慌てて)そ、粗大ゴミ?
ダイヤとルビーが近づいてくる。
ワタルは、オレンジを守ろうと二人の前に立ちはだかった。
が、あっという問に二人に手を取られ、はがい絞めに。
ワタル(逃れようとしながら)放せ。何をする気だ?
二人はそれまでと打って変わった低い声を出し、
ダイヤ……見つけるのに苦労したわよ。プロペラ外しちゃったのね?
ルビーホント手を焼くわねえ。『ハイグレード・シリーズ』には。
ダイヤ性能良すぎるのよ、機械のくせに人間みたいにいろいろ出来るから。
ルビーオーバーホールして二度と暴走しないようにしてもらわなくっちゃね。
ワタル(暴れながら)な……何の話だ?
ダイヤ持ち主に頼まれたのよ。逃げだしたあなたを回収してくれって。
ワタル持ち主?
ルビーだめでしょ、ワタルちゃん。持ち主には無償の愛を捧げなくちゃ。
抵抗しながらもワタルは、二人の話の意味をじっと考えていた……。


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暴れていたワタルの手足の力が、次第に弱まる。
突然ひどい頭痛がして、ワタルは頭を抱えた。
>ワタルグ……ッ!! うわあああっ……
苦しむワタル。そこにモノローグで、
「僕の中で……火花が散った。何だ……何かの映像が見える……記憶だ。記憶の断片だ。
一度失った記憶の断片を……僕の……僕の人工知能が……必死につなぎ合わせようとして
いた……。
ワタルの様子が変なので、ダイヤとルビーは顔を見合わる。
ダイヤ……おかしいわ。全然覚えてないみたいよ。
ルビーどっかで一度リセットされちゃったんじやない?
ダイヤそうよ、記憶が消えちゃってるんだわ。ちょっと、ワタルちゃん。
ルビーあんたは中年のオバチャンに仕える、愛人型アンドロイドでしょ?。
ワタルあ……愛人……型?
ワタル、苦しそうにもがく。モノローグで、
「僕には……何も思い出せなかった……。一度……一度消去された記憶は……二度と蘇る
はずは……なかった」
ダイヤとルビー、ワタルの背中をまさぐって、


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ダイヤ(慌てて)ね、ね、どうする?一度電源を切らなきゃ、まずいかしら?
ルビー(慌てて)そ、そ、そうね。とりあえず切らなきゃ、まずいわねっ。
オレンジまずい?
突然の声に振り返る、ダイヤとルビー。
木に縛られているオレンジが目に入る。
ダイヤ(頭のプロペラに気づいて)やだ、あっちにもアンドロイドがいるわ。
ルビー(馬鹿にしたように)ふん。エンポリオ・シリーズでしょ?
オレンジひどいわ!!(グッと全身に力を入れる)
ブチッ。満身の力を込め、オレンジが麻縄を引きちぎった。
仁王立ちをして、こっちを睨み付けるオレンジ。
その冷たい視線は、もちろんワタルに向けられていた。
ワタル(苦しそうに)オ……オレンジ……
オレンジ……私たちの仲も、これで終わりね。
その言葉を聞くと同時にワタルの身体の中で、プツン、という音がする。
オナペッツの二人が、背中のスイッチをオフにした音だった。
その瞬間、すべては闇に閉ざされ、消えた。
 〔第一話・完〕


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