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●アンドロイドを売る店(夜)

 
---時は、西暦二〇三〇年のことである。

エレベーターの扉が開き、ワタル(28)が現れる。
店内は薄暗い。
客の姿や、商品も見当たらない。
デスクがぽつん、と置かれ、黒いワンピースの女が座っている。
女は、この店の店員・黒木(26)。

黒木(笑顔で)いらっしゃいませ。

デスクのコンピューターが光を放ち、彼女をぼんやり照らしている。

ワタルあの……ちょっと前に電話した……
黒木恋人型アンドロイドのお客様ですね?
ワタルはい。
黒木どうぞ、こちらへ(と、立ち上がり、奥へ)

ワタル、あわてて後を追う。
店の奥はかなり薄暗い。


1


闇の中、黒木の靴が、規則的なリズムで進む。
靴音を頼りに歩く、ワタル。
歩いても歩いても、闇は続く。
ようやく、黒木の靴音が止まる。と、同時に目の前が明るくなり……
階段が見える。
そこに、三つの女---この店の「商品」がディスプレイされていた。
小さな女、
大きな女、
可愛い女。
商品は三つとも遠くを見つめ、笑顔のまま動かない。

ワタル……(息を飲む)
黒木こちらから順番にレモンちゃん、リンゴちゃん、オレンジちゃんでございます。
ワタル(声も出ず)……
黒木いかがです?人間とまったく区別がつきませんでしょう?
ワタルえ、ええ……
黒木でも、見分けるのは簡単です。アンドロイドにはプロペラがついてますから。
ワタルプロペラ?


2


 
黒木の指が、小さい女---レモンの、つむじのあたりを差す。
そこに、扇風機の羽をうんと小さくした、プロペラがある。

ワタル……なんですか?コレ。
黒木(きっぱりと)プロペラです。
ワタルあイヤ……なんでこんな物が?

黒木、ゆっくり階段を昇り、三つの女の間を歩く。

黒木当社のアンドロイドはあまりにも人間に似ており、どこかに目印がなければ混乱
を招きます。プロペラをつけたのは、いわば自己規制でして(笑)。
ワタル(階段の下から商品を見つめ)……。
黒木(上から)あの……お気に召しませんか?
ワタル……え?
黒木申し訳ございません。あいにく在庫はこの三体だけでして……。新型の「ハイグ
レード・シリーズ」でしたら、常時二十体ほどご用意しているんですが……。
ワタルあ、ちがうのもあるんスか……。
黒木こちらの三体は、恋人型アンドロイドの「エンポリオ・シリーズ」と申します。
実はこちら、当社が三年前に発表した旧型の商品でしてソノ……
ワタルなるほど。在庫がない分、安くなってるわけですか?


3


黒木……はい。あとモデルにかけた経費とかも多少。
ワタルむこうはいくらなんです?
黒木だいたい、五倍のお値段になります。
ワタルえっ?
黒木……五倍です。
ワタル……(絶句)

が、黒木にはそんなワタルが思案中か?と見えて、セールス開始。

黒木でもお客様、今お求めになるのでしたら絶対「ハイグレード・シリーズ」の方を
おすすめしますよ。価格は五倍でも性能は十倍、いや数十倍の開きがございます
から。さあ、どうぞこちらへ(と、声を弾ませ、歩きだす)

後にワタルが続いていると思い込んだまま進む、黒木。

黒木「ハイグレード・シリーズ」ですと、アンドロイドとはいえ食事をしたり睡眠を
をとったり……トイレにも行きます(笑)。外見だけでなく、内面にも徹底的に
こだわった、限りなく人間に近い商品なのです。もちろん、モデル選びに掛けた
経費もあちらの「エンポリオ・シリーズ」とは比べ物になりませんわ。

立ち止まり、自信いっぱいの顔で振り返る。
が、そこにワタルはいない。


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