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階段の上------。ワタルは三つの女を丹念に見比べている。
まずは小さい女・レモンの前に立ち、その顔をまじまじと眺める。
美少女には違いないが、年齢がちょっと若すぎる。

ワタルうーん……別に俺、ロリコンじゃないしな(と眩く)

今度は大きい女・リンゴの前へ。しかし、リンゴはかなりの、デブだ。

ワタル(苦笑いし、小さい声で)いくらなんでも、こりゃあない。

リンゴをパスして、可愛い女・オレンジの元へ。
……近くで見ると、オレンジは案外老けていた。
年齢の割に童顔なので、今まで気づかなかったのだ。

ワタル三十過ぎてるぞ、こりゃ(と眩く)

コホン、咳払いに振り返ると、階段の下に黒木。

黒木お決まりですか?

悩むワタル。もう一度オレンジの顔を見る。

ワタル(ブツブツと独り言)可愛いのは確かなんだけど……
黒木……?
ワタル(ブツブツと独り言)過ぎてるなあ、うん。絶対過ぎてる……


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黒木(よく聞こえず、大声で)わかりました、オレンジちゃんですね?
ワタルえっ(と振り返る)
黒木さすがお目が高いですわ(と微笑む)
ワタル(呆然)……。

ワタル、もう一度オレンジを見てみる。
年齢以外は何ひとつ不満がない。
遠くを見つめ、汚れのない微笑みを浮かべたオレンジ。
ワタルのモノローグで―――、

「彼女はいったい何を見て、そしてどうしてこんなに優しい顔で笑ってるんだろう……。
結局、僕はオレンジの購入を決めた」

 
―――――タイトル「第一話時計じかけのオレンジ」



●アンドロイドを売る店(時間経過)

 
黒木のデスクヘ運ばれたオレンジ。


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その笑顔は、ワタルに向けられている。

ワタル(妙な気分で、落ちつかず)……。
黒木この商品には、あらかじめ二百五十六種類の恋人型の会話がプリセットされてお
ります。一例をご覧いただくためにも、電源を入れてみましょう。

と、オレンジの背後にまわり、親指で背中を強く押す。
ピッという電子音。頭のプロペラが回転し始める。

ワタルおつ。

オレンジの瞼、大きくまばたく。

黒木アンドロイドは、お客様のちょっとした言葉やふとした行動をきっかけにして、
会話を自動的に始めます。試しに、彼女の瞳を見つめていただけます?

ワタル、言われたままにオレンジを見つめる。と、

オレンジ愛してるわ。
ワタルえっ?
オレンジあなたのこと、愛してる。
ワタルう、うわー……
オレンジ(ニコニコッと微笑む)
黒木どうです?瞳を見つめられば、いつでもこの会話がスタートします。


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ワタルこ……こういうのが、二百いくつもあるわけですか?
黒木はい。二百五十六種類ですわ。
ワタルほーっ。他にどんな会話が?
黒木お客様のどんな言動に対し、何が始まるか。どんな返答に対し、どう変わるか。
説明書にもあえて記載しておりません。それはご使用になってからのお楽しみと
いうことにしてあります。中には思いも寄らぬお楽しみプログラムやハプニング
が、ゲームの裏ワザのように隠されてますので。

ワタル、じーんと感動に震えて、

ワタルくーっ、マニア心をくすぐるなあ……。これじゃ、本物の女性より恋人型アンド
ロイドの方がいいなんて言うヤツもいるわけだあ。
黒木ええ。アンドロイドの愛は、無償の愛ですから。
ワタル無償?
黒木本物の女性のように、自分の愛よりも大きな愛や、お金だとか名誉だとか……。
そういった代償を相手に一切求めません。もちろん、浮気もしないし、嫉妬もし
ません。
ワタル無償の愛、か……(とオレンジを横目で見る)
黒木では、早速清算をさせていただきます(とデスクヘ)


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